Global Type Relay: Mark Gowing (Sydney SYD)

typographics t誌内では国際的タイポグラフィデザイナーを新連載として始めて、まずは英語で紹介して、同時にtypographics t オンラインで日本語で紹介します。フィーチャーされるデザイナーにはバトンリレー形式で次の方を紹介してもらいますが、1つだけの条件があります。次回は別の国の方へ。最終的にどこまで行き着くことでしょう。第三回はオーストラリア在住アーチスト・デザイナー・出版者、マーク・ゴーイング氏。
[取材:ブラザトン・ダンカン、翻訳:内之倉彰]

Mark Gowing (マーク・ゴーイング)
Formist (https://www.formist.co)

マーク・ゴーウィングは、オーストラリア・シドニーのガディガル/ワンガル族の地域で活動するアーティスト・デザイナー・出版者。出版・書体設計・デザイン事務所であるFormistのディレクターであり、書籍・書体を専門とし、文化活動も委託されている。革新的な音楽芸術団体Longform Editionsの共同設立者でもあり、30年以上にわたって活動するゴーウィング氏はビジュアルアートと言語・デザイン・映画・音楽に熱心に取り組み、有数の組織や機関のためにプロジェクトを制作。ゴーウィング氏の作品は世界中で展示・出版されており、数々の国際的な賞を受賞している。2021年、ゴーウィング氏のポスターデザインを紹介する『Mark Gowing: Inside the Oblong(楕円形の中)』がFormistから出版された。

Formist Editions: Mark Gowing, Inside the Oblong publication

Q: ガディガル族やワンガル族たちを先住民として認める事はとても素晴らしいことです。その理由を知らない人のために説明していただけませんか?

私たちはこれを「本来の持ち主への告白」と呼び、オーストラリア先住民を代々つづく土地の守護者として表敬する機会と考えています。彼らが特定の場所と密接な関係にあると認識する事が重要で、ガディガル族とワンガル族は私が生活する地域の伝統的な守護者です。彼らをこの土地の伝統的な所有者と認めると同時に、植民地化が始まって以来、先住民たちが経験してきた大きな抑圧を認めることが重要だと思います。私たちは非常に重要な修復の過程を始めようとしていますが、まだまだ長い道のりです。

Formist Foundry: Marking typeface

Q: デザインやタイポグラフィを始めたきっかけは何ですか?

学生時代、私の本に文字やロゴの落書きをしていました。自然に行っていた事なので、デザインを人生として選択できるなんて考えもしなかったです。祖父が仕事としてのタイポグラフィやデザインがあると教えてくれ、すぐにその魅力に取り憑かれました。

Formist Foundry: Kapitol typeface

Q:マークさんの明確なコミュニケーションに特化したタイポグラフィー作品は、どのような影響を受けているのか教えてください。

文字は文化的な考えの伝達手段として不可欠だと思っています。また、私たちが共有したり視覚的に伝達しあう内容のトーンがわかるので、私はいつも正しい内容とトーンを探しています。これは私が新しいプロジェクトを始める際に最初に考えることで、常に目の前の問題に特化した新しいタイポグラフィ言語を作りたいと考えています。ほとんどの場合この過程は文字通りというより、コンセプトに対するトーン的な視覚的反応になることがあります。私は物事の感覚を結びつけることに興味があるので、読者が直感的に作品を理解できるのかと思います。

Seoul Museum of Art: Un/learning Australia publication

Q: クリス・ロさんからお二人の共同制作についてお話がありました。教えてください。

クリスと私は「アン/ラーニング オーストラリア」というオーストラリア・アートを幅広く紹介する展覧会のアイデンティティと出版物の共同制作を依頼されました。アートスペース・シドニーとソウル美術館が共同企画したこの展覧会は、オーストラリアの複雑な歴史を解き、文化としてスタンダードな表現に挑戦しています。交互に我々のデザインを捨て去る方法を行い、最も基本的な成果を求めて、それぞれが相手の慣れない体をつかった方法に追い込み、その結果を共有し、相手も同じ方法を真似るようにしました。私たちはこの展覧会のキーシンボルとして「un」という接頭語を使うことに決めました。小文字で描けば完全に反転することを発見し、基本的なフォームの繰り返しに動作で集中させることができたのです。また、これらのシンボルの要素的な性質が、英語の文脈の有無にかかわらず、的を得た解釈しやすいものであることもわかりました。コンセプトを実行するため、私たちは1メートルの棒をコンピュータのマウスに貼り付け制限されたマウス操作で、ベジエ曲線を使ってそれぞれ「un」形態を描きました。そして出来上がった「un」は展覧会の全マテリアルで使用されました。

Formist Foundry: Graph typeface

Q: スタジオワークや出版、Formistでの書体設計をどのように両立されていますか?

両立ができているとは全く思っていません。Formistは私と妻のサンディの2人だけです。彼女はデザイナーではなくリサーチ・戦略・編集・マーケティングを担当しており、デザインはすべて私が行なっています。予算の許す限り、特定の仕事を手伝ってくれる契約社員を雇うこともあります。最近はクライアントからの商業的な仕事はほとんどなく、出版や書体の仕事が中心です。やりたいこと全てをこなす時間が確保しづらいので、どうしても締め切りのあるプロジェクトを優先し、必然的に後回しになるプロジェクトもあります。

Longform Editions 24 covers: Carlos Niño & Kofi Flexxx, In the Moment Part 3; Maggi Payne, Through Space and Time; ulla, Hope Sonata; Gavilán Rayna Russom, Trans Feminist Symphonic Music

Q: Longform Editionsも運営されていますね。教えてください。

Longform Editionsはアンドリュー・ケドリーと私が4年前に立ち上げたキュレーション型の音楽団体です。音楽で冒険心を持つ人々のために没入型のリスニング体験を育み・楽しむことを目的としています。アンドリューと私は20年近く一緒にレコードレーベル・Preservationを運営してきましたが、今では誰もが利用できるデジタル音楽配信システムを利用し、芸術としての音楽に重きのある進歩的なことをしたいと思うようになりました。この団体はレコードレーベルとして企画されたものではなく、むしろアートギャラリーで行う進化し続けるグループショーのようなもののデジタル音楽配信版なのです。


次回 SYD→LHR: Paul McNeil (UK)

ポール・マクニールは最近、Formistから出版された「Kris Sowersby: The Art of Letters」に素晴らしいエッセイを書きました。 マクニール氏が出版した『The Visual History of Type』というタイプデザインの広範な調査を含む本、マークは前から賞賛している。

制作者
BrothertonDuncan
BrothertonDuncanの顔写真
オーストラリア出身で、2001年より日本に在住し、GRAPHIC DESIGNER+THINKER+WRITERとして活動しています。デザイン以外にも英訳の仕事を受ける。大阪医科薬科大学と京都芸術大学でデザイン専門英語、奈良芸術短期大学で編集デザインを担当。2011年に入会、現在は西部研究会委員会の担当理事。クラフトビール好き。最近新しいチェーンソー購入。普段、母国語より関西弁しゃべっている。