Global Type Relay: Nat Pyper (New York)

typographics t誌内では国際的タイポグラフィデザイナーを連載として始めて、まずは英語で紹介して、同時にtypographics t オンラインで日本語で紹介します。特集されるデザイナーにはバトンリレー形式で次の方を紹介してもらいますが、1つだけ条件があります。次回は別の国の方へ。最終的にどこまで行き着くことでしょう。第9回はニューヨーク在住のアルファベット・アーティスト、ナット・パイパー氏。

Nat Pyper (ナット・パイパー)
https://www.natpyper.com/

ナット・パイパーはアルファベット・アーティスト。フォント、ウェアラブル(衣類・アクセサリー)、ビデオ、パフォーマンスなどの活動は、現在進行中のクィア出版史の研究から発展したものであります。シカゴ市のポエトリー・ファウンデーション、トロント市の現代芸術ギャラリーのクーパー・コール、ブルックリン市のスペースPAGEANTでパフォーマンスを行ない、チューリッヒ市のMuseum für Gestaltung、ノルウェーのKunsthall Stavanger、ニューヨーク市のPrinted Matterで展示を開催し、Are.na、Draw Down Books、GenderFail、Inga Books、Queer.Archive.Work、Source Type、とWalker Art Centerで出版しました。イェール美術学校で修士号を取得。ニューヨークとブルックリンを拠点に活動。

Cutup / Freedom / to / Know / Your / Own / History (2021)。80年代と90年代のクィア・パンク雑誌の画像をスクリーンプリントしたフェルトのウェアラブル・シリーズ。

Q:表現するメディアとしてなぜアルファベットを選びましたか?

自分としてこの物理的な世界に介入するための物理的なものとして言語について語る近道です。基本的に、言葉と世界とのこの関係に限りなく魅了されています。

シンシア・ブラウン氏の本『Literacy in 30 Hours: Paulo Freire’s Process in North East Brazil』の最初に、「読書を学ぶことは政治的な行為であります。」と書かれてあります。ブラウン氏はフレイレの作品を紹介する中で、1960年代のブラジル(国家と支配階級の大反対にあった時代)におけるフレイレの急進的な参加型の識字活動について詳述しています。1964年の軍事クーデター後、フレイレはその活動のために投獄され、その後追放されました。つまり、言語が持つ物質的な効果・もたらす脅威がお分かりになると思います。社会を再構築し、現状に挑戦する識字は、より良い世界を想像しようとする人々の手の中でアルファベットが何を成し得るかを教えてくれます。ブラジル系アメリカ人で、フレイレのファンでもある自分として、このような歴史と識字に対する理解が、変革のメディアであるアルファベットを使う動機となります。

フレイレの作品を紹介する中で、ブラウン氏は国家と支配階級の大反対にあった時代であった1960年代のブラジルにおけるフレイレの急進的で参加型の識字活動について詳述しています。1964年の軍事クーデター後、フレイレはその活動のために投獄され、その後追放されました。つまり、言語が持つ物質的な効果・もたらす脅威が分かりますでしょう。社会を再構築し、現状に挑戦する識字は、より良い世界を想像しようとする人々の手の中でアルファベットが何をなしうるかを教えてくれます。ブラジル系アメリカ人で、フレイレのファンでもある自分として、このような歴史と識字に対する理解が、変革のメディアであるアルファベットを使う動機となります。

Women’s Car Repair Collective.otfのインスタレーション。チューリッ市のMuseum für Gestaltungでの展覧会(2023年)。「A Queer Year of Love Letters」シリーズの一部。

Q: アーティストが書体やフォントを作っているのは珍しいですね。どのような経緯でそうなったのですか?

実はグラフィックデザイナーとして学びましたので、デザインとタイポグラフィは馴染みのある分野です。いろな意味で、タイポグラフィが出発点でした。フォントを作ることがずっと好きだったのは、言葉そのものを超えたアイデアを表現する方法でもありますし、言葉の形がどのように意味を拡大したり変化させたりするかを試すことができるからです。言葉を自分の手の中に取り込む方法なのです。

この数年、「A Queer Year of Love Letters」というプロジェクトに取り組んでいます。過去数十年のカウンターカルチャー的なクィアたちの人生と仕事を偲ぶフォントのシリーズです。それぞれのフォントは、公民権運動家のアーネスティン・エクスタイン、画家のマーティン・ウォン、パンク出版社のG・B・ジョーンズ、ミュージシャンのジェラルド・ベラスケス、アンダーグラウンドのアイコンであるザ・ゴッディス・バニーなど、歴史的な人物たちが元々創作した字形に基づいています。このシリーズは、これらの歴史を記憶する行為を、タイピングのように簡単に、他の人々にもアクセスできるようにすることを目指しています。さらに言えば、タイピングという行為を記憶する行為にすることを目指しています。つまり、フォントを作ることは、自分にとって、これらの見過ごされてきたクィアたちの歴史を記念する方法でありますし、それらを現在に拡張する方法でもあります。

Together They Ask… (2024)。カスタム・スタジオフォントが使われていて「他者に抱かれながら、支配するシステムの外側に存在することは何を意味するのか?」と書かれています。
The Goddess Bunny.otf (2023)の2色フォント. 「A Queer Year of Love Letters」シリーズの一部。

Q:タイポグラフィをどのように捉えていますか?

タイポグラフィを目的よりも手段として捉えています。フォントを作るのはとても楽しいけれど、タイポグラフィの専門家ではない。カーニングが苦手なんです。字形の解剖学を正確に説明することもできない。それよりも、書体に何ができるかに興味があります。それが世の中に出て、他の人に使われた後に何が起こるのか。それがどのように言語を形作るのか。逆に言葉がフォントをどのように形作るのか。フォントが誰もが使えるクリエイティブなツールであることが好きです。一種のソフトパワーですね。

タイポグラフィは行動する文化だと考えています。この時代の進捗状況を表現する方法なのです。歴史上の特定の瞬間の価値観を、そこから生まれたフォントから学ぶことができます。そして、文化が持続しているからこそ人々がフォントを作り続けます。人々はまだ言いたいことがあり、それを発言するための新しい方法を持ち続けています。フレイレ氏の言葉を借りれば、「フォントの作り方を学ぶことは政治的行為なのです」。

ナット・パイパーによる様々なフォントを使用した、ベルトループのチェーンで縛られた一連の短編テキスト『Love Handles』(2024年)。

Q:NYでタイポグラフィ好きにお勧めの場所があれば教えてください。

ブルックリンにあるInterference Archiveは、ニューヨーク市とそれ以外の地域の社会運動に関連する膨大なビジュアル資料のコレクションを所蔵する素晴らしいコミュニティ・アーカイブです。文化や共闘の直接的な事例としてのタイポグラフィの生き生きとしたものがたくさんあります。通常、展覧会が開催されていますし、アーカイブは無料で一般公開されています。

ニューヨークの街をただ歩くのも大好きです。この街は、ほとんどすべての街区に古い看板から残された奇妙で美しい現地タイポグラフィーを見ることができますし、あてもなく歩く旅行者に宝を与えてくれます。自分のお気に入り散歩コースは、ロウアー・イースト・サイドとチャイナタウンです。さらに古い前近代的なタイポグラフィの名残に興味があるなら、マンハッタン上部にあるクロイスターズが自分のお気に入りの博物館です。

ソウル市のTypojanchi 2023で展示されている、言語に関する映像作品『Trust Fall Into the Gap』(右、2019年)のインスタレーション風景。

JFK→HRE: Osmond Tshuma (Harare, Zimbabwe)

ナットは次のゲスト、ジンバブエのハラレ市にいるオズモンド・トゥシュマ氏にバトンを渡しました。「ニューヨークのイベント『Typographics』で、デザインとタイポグラフィに対するアフリカ独自のアプローチの支持について、エネルギッシュな講演を拝見し感動しましたので紹介したいです。」

記事作成者
BrothertonDuncan
BrothertonDuncanの顔写真
オーストラリア出身で、2001年より日本に在住し、GRAPHIC DESIGNER+THINKER+WRITERとして活動しています。デザイン以外にも英訳の仕事を受ける。大阪医科薬科大学と京都芸術大学でデザイン専門英語、奈良芸術短期大学で編集デザインを担当。2011年に入会、現在は西部研究会委員会の担当理事。クラフトビール好き。最近新しいチェーンソー購入。普段、母国語より関西弁しゃべっている。