typographics t誌内では国際的タイポグラフィデザイナーを連載として始めて、まずは英語で紹介して、同時にtypographics t オンラインで日本語で紹介します。特集されるデザイナーにはバトンリレー形式で次の方を紹介してもらいますが、1つだけ条件があります。次回は別の国の方へ。最終的にどこまで行き着くことでしょう。第11回は南アフリカ・ヨハネスブルグ市在住の書体デザイナー・ハンドレタリング作家、フムラニ・ネムロディ氏。
Fhumulani Nemulodi (フムラニ・ネムロディ)
Instagram: @tondi_type
Tondi Type
https://www.tonditype.com/
南アフリカのタイプデザイナー兼ハンドレタラー、フムラニ・ネムロディ氏(またの名をフムズ)は、南アフリカ・リンポポ州のベンダというエリアで生まれました。デジタルタイプファウンドリー「トンディ・タイプ・スタジオ」の創設者です。トンディ・タイプは「タイプは声である」という理念を掲げ、視覚的コミュニケーションにおいて言葉の響きや声のトーンを伝えるための独自の書体を実験的に開発するコンセプトで設立されました。
Q: ご自身の背景と、どのようにしてタイプデザインの世界に入ったのか教えていただけますか?
タイプデザインとの出会いはデザイン専門学校での経験から始まりました。2010年に南アフリカ国立メディア研究所(NEMISA)でデザインコースを受講し、その一環としてサブカルチャーを研究し、そのテーマに沿ったタイプフェイスをデザインする課題がありました。実際に働き始めてから、個人的な「タイプ復興」の時期を迎えました。2人の同僚がタイプデザイン追求へと後押ししてくれたのです。
Q: 「ベボップ・スラブ」書体のリリースがトンディ・タイプ設立のきっかけだと聞きました。このタイプフェイス制作がタイプファウンドリー設立を後押しした経緯を教えていただけますか?
前述の同僚の1人と、フォントを作成し公開するために必要なことについて連絡を取っていました。自分にとって、新たなソフトウェアとマーケットプレイスの世界が目の前に広がり始めていました。グリッド紙にフォントのスケッチを書き始めました。目標は、基本的な形状を使ったシンプルなディスプレイフォントを作成することでした。デザインからマーケットプレイスへの移行をできるだけ早く行うことで、プロセス全体を深く理解したいと考えていました(ラピッドプロトタイピングそのもの)。
トンディは自分の個人ブランドとして使用していた社名で、フォントスタジオの名前としても選択しました。ベボップをリリースし、トンディ・タイプとして自己紹介することは、競争の激しい日常から逃れるための副産物でした。しかし、ポジティブなレビューや、そうでなければ出会わなかった人々とオンラインで交流する中で、私は自分自身をフォントデザイナーとして、トンディ・タイプ・スタジオを実際のフォントスタジオとして想像するようになりました。
Q: 地元の文化を参考にしてタイプフェイスのアイデアを考えることはありますか? 例を挙げてもらえますか?
現在のトンディ・タイプのカタログは、タイプデザイン業界の中で未来的で工業的なディスプレイゾーンに位置しています。ある意味では、すべての公開したフォントが国際的なフォント文化、ブルータリズム、スイススタイル、アールデコなどからインスパイアされています。
現在リリース予定のフォントシリーズには、地元の文化デザイン言語からインスパイアされたものもあります。例えば、子供の頃にいろんな農家に飾られていた「Vha Venda」と言う幾何学模様を再解釈したフォント「Mizwinki Tribe」があります。また、遊牧民のコイサン族の岩絵からインスピレーションを得たフォントや、南アフリカの理髪店やスパザ(キオスクのこと)でよく見かける非公式の手書き看板からインスピレーションを得たフォントもあります。近い将来、これらのフォントを共有できることを楽しみにしています。
Q:南アフリカのグラフィックデザインに関する情報は、日本にはほとんど届いていません。南アフリカには、フォントメーカーやタイプデザイナーがどのくらいいますか?注目の人物などいればぜひ!現地のデザインシーンはどのような感じですか?
はい、南アフリカにはタイポグラファーやフォントメーカーはいますが、それほど多くはいないです。自分にとって最も注目すべき人物は、Andrew Footit氏とKatlego Phatlane氏(またの名をKatt Phatt)。この2人はタイプデザインを始める際にインスピレーションを受けました。他はNomonde Mthethwa氏、Denton Pretorious氏、Hust Wilson氏、Mokoena Kobeli氏などです。南アフリカ国籍ではありませんが、もう 1 人、注目すべき人物としてはオズモンド・シュマ氏(t誌309号に紹介)。彼は、私が大学時代から大きなインスピレーションを与えてくれたデザイナーです。
私たちのデザインシーンは小規模で、タイポグラフィに関するイベントや交流会もほとんどありません。今後、年を重ねるごとに状況が改善され、タイプデザインがより認知されるようになることを願っています。
Q:フムラニさんはアニメマニアと伺いました。どんなアニメが好きで、その魅力は何ですか?そしてトンディの書体にどのような影響を与えましたか?
もちろん!長いリストがありますが、特に『カウボーイビバップ』『吸血鬼ハンターD』『天元突破グレンラガン 紅蓮篇』、そして宮崎駿の全ての作品が大好きです。『カウボーイビバップ』の軽快なディストピア世界や、ジブリアニメの魔法のような質感が好きです。
アニメからインスパイアされたフォント、いくつかあります。『Bebop Slab』は『カウボーイビバップ』から、『RQND Pro』と『Nicro Force』はメカアニメからインスパイアされました。
Q: ヨハネスブルグ市でタイポグラフィー愛好家が訪れるべき素晴らしい場所はありますか?
ヨハネスブルグ市と南アフリカはタイポグラフィーのインスピレーションに満ちています。市内中心部(マーシャルタウン、ヒルブロウのエリアなど)はタイポグラフィーを観るのに最適な場所で、古い建物が多く、アールデコやアバンギャルドスタイルの表札・看板が数多く見られます。ヨハネスブルグ市にはサイケデリックなグラフィティの存在感もあります。ニュータウン、ブラムフォンテイン、ランドバーグ近郊のミルパークなどは、多様なスタイルのグラフィティを観るのに最適な場所です。
JNB→ABJ: Adam Yeo, Republic of Côte d’Ivoire (Ivory Coast)
今、私たちは普通のタイポグラフィ雑誌とはまったく異なる冒険に出ています。ボンドゥクー市は、コートジボアールの首都アビジャン市から約400km離れた、約20万人的人口を有する小さな都市です。フムラニさんは「アダムさんはアフリカの文字体系に関する研究とタイポグラフィーデザインを行う研究者です」と述べています。
「インスタグラムで彼の仕事を初めて知りました。自分がSNSで活動するようになってから、アフリカ大陸や世界中で素晴らしい仕事をしているアフリカのタイプデザイナーたちに出会うことが増えました。アダムさんがアフリカの文字体系で成し遂げた素晴らしい作品と、どこまで発展させたかは、タイプ産業がほとんど存在しないアフリカ大陸において、自分にとってのインスピレーションと指針となっています。」