私たちは普段視覚を通してたくさんの情報に触れています。中でも格段に多いのは文字による表現です。街の看板や駅のサイン、デジタルサイネージでの広告やスマートフォンで伝えられるメッセージ。文字による表現は多岐にわたり、文字による情報を目にしない日はないといっていいでしょう。そんな文字による発信を支えているものにフォントの存在があります。
フォントとは書体(タイプフェイス:ひとつの様式を持った一定の文字群)をデジタル環境などで使えるようにしたもののことをいいます。近年さまざまなメディアで取り上げられることもあり、フォントというものがどのように制作されているのかを知ってもらえる機会も増えているように思えます。専門の制作会社(ファウンダリー)以外に個人で制作する方も多く、イラストを描くことと同じようにフォントを制作してSNSで発信をする活動もよく目にします。物質としての存在がないにせよ文字(字体・字形)という共通認識のもと、作り手が思いや感情を視覚的にデザイン・表現したフォントは人の心を惹きつけるものであり、立派な創作物であることをそれらは物語っています。
そんなフォントですが、多くの皆さんの一般認識としては絵画やイラストなどと同じように創作物として見てもらえているとは思いますが、日本では2000年の最高裁での判決もあってか書体やフォントの法的保護がほとんど進んでいないのが現状です。フォントをプログラムとして見た場合や使用許諾に照らした場合での権利というものには一定の理解はあるにせよ、どこかモヤモヤとした中途半端な感じになっています。
近年の世界規模での経済連携の動きや、技術発展が加速的に進む中、フォントを取り巻く環境もこれまで以上に変化し続けています。そんな目まぐるしい今だからこそ、あらためてフォントの保護のあり方を広い視野で見つめ直してみる時期なのではないでしょうか。
そこで、長年フォントの法的保護を訴え続けている団体としてさまざまな視点からの法的保護についての声を発信をすることにしました。ここで発表される記事や論文などを通してフォントの保護についてより関心を持っていただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
2022年9月
特定非営利活動法人日本タイポグラフィ協会
知的財産権委員会委員長 大崎善治