心をつかむ文字の力:森永乳業「MOW」

パッケージデザインは、競合商品が陳列する 棚の中でいかに自社の商品に目を留め、手に取ってもらい、購入してもらうか、成果が売り上げとして明確に現れる世界です。その中で文字が果たす役割は、単に読みやすい、美しいではなくマーケティングに基づく考えを明確に伝える大切な役割を担っています。 この連載ではパッケージにおけるタイポグラフィに着目することで、文字が担う役割をデザイナーの目線ではなく、企業側のマーケット視点を通して読み解くことにより、文字の役割や可能性を考えていきます。

 
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今回は購買層や需要が変化しているアイスクリーム、その中でも毎年リニューアルをしながら進化する森永乳業の「MOW」について伺いました。

現行パッケージ:「種類別アイスクリーム」の品格や美味しさにかける思いを堂々としたデザインで表現している。

 

Q : 「MOW」の誕生について教えて下さい。

誕生したのは2003年です。アイス市場でカップアイスのバニラ味というのが昔からの王道で、ボリュームが最もある商品です。当時競合各社が出していたものはカスタード系のバニラアイスでした。当社はバニラアイスで強い商品を作りたいという思いがあり、乳業メーカーとして乳の力や技術を使って美味しいミルクアイスを作るというところから開発はスタートしました。 ブランド名は、牛の鳴き声にちなんで「MOW」というシンプルで覚えやすいということからつけました。

 

Q : 発売当初から現在に至るまで、冷菓市場や需要がどう変化していったか教えてください。

冷菓市場は、1994年に4300億円がピークでした。その後2003年に3300億円まで落ちた時代があり、そこから約10年かけて2013年に4300億円まで再び伸びて過去最高を記録しました。実は「MOW」を発売した2003年というのは市場全体の売り上げが一番落ち込んだ時代でした。そこで市場自体を盛り上げたいという思いもあり、発売した当初はミルク1品でしたが、それ以降はフレーバー品のイチゴ味や期間限定商品で様々なフレーバーを展開をしていき、順調に売り上げ自体は伸びていきました。

現在のアイス市場自体は2016年には約4900億円に伸びて4年連続過去最高を記録している非常に好調な市場となっています。その要因としては、数量自体よりも単価自体があがっている。商品自体にかなり高付加価値のある商品を各社出すようになり、お客様もそういった高付加価値の商品を求めるようになりました。昔は子供が食べるお菓子とか、暑い時に食べるものという位置づけだったものが、最近では大人が贅沢するスイーツとういう位置づけまで上がっている点が市場が伸びている要因だと思います。また、食べるシーンも朝に食べるお客様もいますし、色々なシーンに拡大していることも市場が伸びている要因であると見ています。

 

パッケージ変遷

 

Q : 現行デザインに至る変遷と、リニューアルの目的、意識されたことなど教えて下さい。

発売当時は牧場で食べるソフトクリームのような濃厚で後味すっきりなめらかというところから色をブルーの基調にしました。ミルクが持つ柔らかさとか優しさをモチーフにしているロゴと、なめらかなソフトクリームをイメージしているシズルで構成したデザインでした。ロゴは2003年からマイナーチェンジをしながら、2013年まで使用していました。

実は発売してからの売り上げのピークは2009年です。それ以降、2009年から2014年までは年々右肩下がりで厳しい時代を過ごしていました。2013年に世の中が贅沢とか品質の方に向かったこともあって、高級感を感じる金のロゴに配色するなどチャレンジをしたのですが売り上げは伸びませんでした。この路線を続けていっても厳しいと判断し、もう一度ゼロベースで見直しました。そこで「MOW」の価値と世の中のお客様を考えた時に、もっとシンプルに「MOW」のミルクの美味しさをもとにアイスの美味しさを伝えていけるのではないかと考えました。

そして2015年のリニューアルの際に、品質に対して絶対の自信を見せるため堂々とアイスのシズルを中心に配置し、ロゴ自体も丸みを帯びた可愛い印象から、大人の方が自分向きと思ってもらえるような品質を感じてもらえるロゴにデザインをリニューアルしました。改めて30代、40代の女性を狙うと設定したときに興味を持ってもらう「中身の美味しさが伝わるロゴってなんだろう?」というところから考え直して開発したのがこのロゴです。

2017年度は、ロゴのサイズをさらに大きくし、中心から拡がるグラデーションの効果によって、パッケージを見た時に一番最初にロゴに視点がいくようにリニューアルをしています。ちょっとした工夫なんですがお客様の分からない範囲で店頭での目立ちを改良しています。

上:新ロゴ
タグラインが組み合わされ、より情緒的価値を付加。和文ルビを「O」の中に収めることで効率的に表示できる。
下:旧ロゴ

 

モノグラムパターン:カップに使用している「M」を使ったモノグラムパターン。パッケージ全体で大人の品質感を担保している。

 

Q : 2015年度の大きなリニューアルの後、売り上げやお客様の層に変化はありましたか。

2015年度のリニューアル後は、狙っていた30代、40代の女性の客層が増え、かつ20代、30代の男性も増え、かなり新規のお客様を獲得できました。ブランド全体としては2015年度は150%伸びました。それはかなりパッケージデザインの力だなと感じています。また、味も大きく変えたこともあり、2016年度も2015年度よりも売り上げ伸びていて、今年もさらに伸びています。リピーターもかなりついてきています。

 

Q : パッケージにおける文字の役割を教えてください。

この経験から見るとロゴや文字まわりは、お客様と接する時にとても重要な要素だと思いました。お客様は、ロゴや文字から商品のイメージ、中味などを想起されていますし、ブランドのイメージを伝える上でもとても重要な役割だと今回改めて認識しました。 − ありがとうございました。

 

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「MOW」という3文字に込める想い。こんなにもドラスティックに文字の力によって成功を収める事例もなかなか少ないのではないだろうか。乳業会社だからこそのミルクに対する絶対の自信、誇りを掲げたネーミング、商品コンセプトなどブランドの本質的な部分は変えずに時代の変化に臨機応変に進化した結果、現代の需要と噛み合い、今なお成長し続けている。そこには、ただ書体を変えただけではなく情緒的価値を伝えるタグライン、和文ルビが「MOW」に組み合わせてあり、ロゴまわりだけでしっかりとブランドを伝えるようにされている。さらに背景のグラデーションの効果によりロゴに視点を誘導する工夫もある。極めて戦略的に消費者の心をつかむ「文字の力」がここにある。

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取材協力:森永乳業株式会社

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